廣瀬冬華は言えないでいる―小鳥遊秋恵の同期

「加奈はな、こう 凄いんよ。

 しっかりとした目標があって、それをちゃんと行動に移してて。

 加奈もあたしも、まだ警察学校卒業してへんけど

 警官になったら、加奈みたいな警官になりたいなーって

 なんていうの。 憧れ? って奴?」

 

「あ、後めっちゃ良い子やで! オマケに優しい!

 ついでに頭ええ上にスーパー頼りになる!!」

「秋恵、お願いだから褒め殺しも程々にして」

「あ、阿雲先輩」

「あたし、加奈のそーいうお願いは聞かんことにしとるんやけどさ」

「聞こう?」

 

 

警察学校でそんな会話をしていたのはいつ頃だったかな。

 

この時は警察学校のサイクルに慣れてきた頃で

私と秋恵はまだお互いに名前呼びじゃなくて

加奈先輩のことも知ったばかりで、まだ苗字呼びで。

 

警察学校という限られた時間の中で

親友にまで発展した2人の関係を正直羨ましいと思ったし、

自分の話より相手の話をしている方が

ずっと生き生きとする2人の喋っている姿も好きだった。

 

少しして加奈先輩は警察学校を卒業した。

秋恵と加奈先輩が同じ空間に居て喋る様子を、

加奈先輩が喋る様子を間近で見ることはできなくなったけど

秋恵がよく加奈先輩のことを口にするから、寂しくはなかった。

 

更に月日が経って、警察学校を卒業した時

「やっと加奈に追いつけるわぁ」と呟いた秋恵の表情は嬉しそうだった。

 

卒業も束の間、所属して2週間としないうちに

加奈先輩が行方不明になったという伝達を、受ける。

 

良くしてくださった加奈先輩が行方不明なのもさることながら

ずっとスマホを片手に握りしめて、LINEをずっと送ったり

着信がないかしきりに確認する秋恵の心配気な表情が、悲しかった

 

 

秋恵はほとんどと言っていいほど加奈先輩の話をしなくなった。

 

行方不明伝達から暫くは、ずっとスマホを片手に持っていたし

毎日のように加奈先輩の居そうなところに出掛けたりしていたのに。

・・・いや、探してるような様子は まだあるけれど。

秋恵なりのけじめなのかな、って 私が口を出すことはなかった。

 

秋恵は暗くなったわけじゃない。 寧ろいつも通りだ。

口数も減ってないし、無理して元気を振る舞ってるわけでもない。

それはなんとなく分かるんだ。

 

それでも。 親友を、憧れを。

加奈先輩のことを口にしない秋恵を見るのは、やっぱりどこか悲しくて。

 

 

そして、それ以上に。 加奈先輩はもうこの世には居ない、って

事実を聞いた時の、秋恵の表情を想像した方が

ずっとずっと、心臓が掴まれていそうな感覚に陥るくらい辛かったんだ。