小鳥遊秋恵は歩いている

空が好きだった。

 

特に深い理由があるわけでもなく、単純に空が好きだった。

快晴の空も、月の綺麗な空も、 雨雲は、ちょっと嫌やけど。

 

1人くよくよとするのが、これ以上無いほどに自分らしくなくて

悩んだ時、困った時、立ち止まった時、ふと空を見上げるのだ。

 

 

楽しい時、嬉しい時、頑張っている時

晴れた日の空は、いつだって綺麗だった。

 

見上げた時、親友達があたしの腕を引いていく。

 

「次のとこ行こ」

「ほら、置いてくよ」

 

隣に立つ冬華と、少し先で加奈が振り返って待っていた。

「いややー、置いてかんといてー」と、笑いながら歩を進めるのだ。

 

 

悲しい時、悩んだ時、迷ってしまった時

晴れた日の空は、いつだって綺麗だった。

 

立ち止まった時、先輩や上司があたしの背中を押していく。

 

「ほぉら、いつまでも悩んでんな」

「話なら聞く」

 

振り返った時、喜助サンと輪廻サンが

背中を押した直後のような体勢で、あたしが動くのを待っていた。

 

照れくさくて、少し眉を寄せて笑いながら一歩を踏み出すのだ。

 

 

 

前を向いているのが合っているらしくて。

 

空を見上げながら、冬華と共にあたしは歩いていた。

 

瞬き一瞬のうちに消えてしまった、道の先に居た親友。

周りを見回しながら、親友の影を探しながら、あたしは道を駆けていた。

 

彼女が消えても、空は綺麗だった。

 

 

3年の道を歩み、あたしは周りを見回すことをやめた。

そう、3年だ。 1000日を超える探索時間。

 

消えた親友を諦めたんじゃない、

彼女なら、あたしを追い上げてまた道の先で待ってくれる。

 

冬華が隣で歩いていた。

気がつけば、肩を並べるように、鶴彦が立っていた。

 

見上げた空はやっぱり綺麗だった。

 

 

両脇に立つ彼女達と話をしながら、あたしは歩いていた。

背後での足音の間隔が、広くなっていた。

 

ふとある日気がついた、足音が消えていた。

振り返った時、そこに存在したはずの人が遠のいている。

 

手を伸ばして触れずに、掠りすらもせずに離れていった指先。

 

背中を押してくれた人だった。

振り返らないで歩いていくことができた人だった。

 

その人の手を掴み損ねたことを、悔やんでいる。

 

振り返った先にも広がっていた。

空は、残酷なほどに綺麗だった。

 

 

それでもあたしは歩いていた。

消えた足音を気にしながら、前へ、ずっと。

 

あたしらしく在るように、在りたくて。

 

瞬き一瞬、 隣を歩いていたはずの冬華が、消えていた。

周りを見回して、遠巻きで姿を視認できた喜助サンの姿さえ無くなっていた

 

奥から込みだしてくる感情に、名が付けられないでいて

立ち尽くしてしまったあたしに、鶴彦は背中を擦ってくれていた。

 

空は、 それでも綺麗だった。

 

 

鶴彦と肩を並べながら、あたしは歩いていた。

3年の探索時間とは別に、消えたもう1人の親友の影を探しながら。

 

世界が急速に変わっていく。

周りの景色が変わっていく。

 

返事のない世界で1人、

届きやしない物を押し付けるように届けるのが日課になっていた。

 

ずっと、歩いていた。

空は変わらずに綺麗だった。

 

 

あたしは歩いていた。

あたしの感じたものを話しながら、届けながら。

 

ある日、道の先であたしを待つように立ち尽くす、親友の姿を見た。

1年の半分、6ヶ月ほど姿を隠していた冬華の姿を。

 

周りにはあたしが1人、ずっと贈っていたものが溢れていて、

彼女は申し訳なさそうに、あたしに向けて小さく手を振っていた。

 

届いた。

 

隣を歩いていた鶴彦に謝罪1つ述べて、あたしは走った。

 

半年ぶりに再会した親友に抱きついた。

冬華は細くなっていた。 更に声が出ないと来た。

 

それでも、 半年間行方知れずだった親友が、

見つかった事の方がずっと嬉しかった。

 

置いていってしまっていた鶴彦があたしに追いついた。

空は、この上なく綺麗だった。

 

 

 

空が、好きだった。

目まぐるしく変わっていく世界に、何一つ変わらない青空が。

 

たまにちょっと憎んだ。

心を差し置いて変わっていく世界に、何一つ変わらない青空を。

 

あたしは歩いてた。

あたしらしく在るように。

 

前を、上を向きながら、

背後の消えた足音を気にしつつ、

横を歩く人達と話しながら。

 

世界を、日常を、あたしは歩いてく。

 

 

(歩いて行く姿を後ろから眺めていた)

(まとめる立場として、責任を取るべき俺は、誰よりも一番最後を歩いていた)

(それが日常だった)

(皆の後ろ姿を見据えていた)

(蒲倉に関しては・・引きずっていた節もあるが)

 

(立ち止まった、あの時、)

(見間違いか、気のせいか)

(影が1つ、振り返ったような気がした)

 

 

 

(小鳥遊生存前提。 冬華が帰ってくるまで)