昔の話…なぁ
言ったことあったかは覚えてないんだが
俺がキックボクサーを目指したことは知ってるか?
ああ、そうだ。挫折したってやつな。
自暴自棄になってた時期……真鶴さんに諭されるまでだな。
あの間ずっとねーちゃんが支えてくれたんだよ。
支えてくれたっていうか俺の面倒を見てくれた、というか
遅くに帰ってくる俺に温かいご飯を用意してくれたり喧嘩の手当してくれたりな。
それでも俺は情緒不安で、ある日は人を足蹴にして笑ったり、ある日はボコボコにされて死にかけたり
大泣きしたり、叫んだり、暴れたりそれはまた酷かった。
そんな酷い状況になってた俺が自殺まで考えなかったのは
どんなに暴言を吐いてもどんなに泣きじゃくってもずっと笑顔で面倒みてくれたねーちゃんのおかげだよ。
否定されてばっかだったから、敵しかいないって思ってたから。俺はあの心からの笑顔に安心したんだ。
今思い出すとすげー恥ずかしいんだけどな…
え?なんで心からってわかったのか?…そうだなぁ、あんとき人の視線とかに敏感だったからかもしれない。
まあ…何がともあれあんな痛々しい俺を見て笑顔でいられるのはねーちゃんくらいだと思う。
よく笑顔でいられたよなあ…。
でもさ、笑顔だったねーちゃんも流石にゴミクズみたいだった俺の世話は大変だっただろうなって思うんだ。
今はもちろんもうそんな失態は晒さん!だからあの時の失態を取り戻すように俺は頑張ってるんだ。
立派になった姿をねーちゃんに見せることでねーちゃんに「俺はもう大丈夫!」って示してる。
それが恩返しになってると俺は勝手に思ってるんだけどな。まあ真意はねーちゃんにしかわかんねえけど。
まあとりあえず、ねーちゃんは凄い人だよ。
………なんかねーちゃんの話になったが、こんな話でよかったのか…?
今から私が話すのは、兄弟の美しい絆の話、なんてものではありませんわ。
私欲に溢れた、おかしな女の御話ですの
まず前提として、私には2人の兄弟がいて、両親は共働きで海外で仕事をしているような人、ということを述べておきます。
一番下の暁音は芸術の才能に長けていて、
幼いながら、数々のイラスト関係の賞をとっています。
そして重ねて言うと美しい容姿も兼ね備えていました。
彼女は人々から言われました。
「彼女は天才だ」と
長男であり兄弟の中では真ん中の喜助は武術の才能に長けていて、
その低身長でありながらも、数々の強者を倒していきます。
そして彼は持ち前の清く誠実な心をもっていました。
彼は人々から言われました。
「彼は天才だ」と
そして、長女の私。仰依。
ある日のことです。
弟は『天才』であるのに夢を挫折せざる得なくなってしまいました。
『天才』な弟は絶望していました。
何故なら弟は産まれてこの方すべてをその武術に人生を、その身を、注いでいたのです。
弟は荒れました。何をすればいいか、まったくわからなくなっていたのです。
私にはわかりました。人の弱い感情はたくさん見てきたからです。
私は喜びました。
弟はなにもできないゴミクズになりました。
そんなゴミクズな弟は、私の支えが必要になりました。
私がいないと、何もできない、そんなゴミクズで可哀相な弟。
私は誓いました。一生私が守ってあげようと。
そんな弟はもういなくなりました。
ひとりではなにもできないのに、ひとりでは傷つくだけなのに、ひとりでは暗い未来しか見えないだけなのに
弟は私のもとから去っていきました。それも、笑顔で
………私はなににも長けていませんでした。人より筋力がずっとありませんでした。
容姿は普通の人よりはいいかもしれないけれど妹に劣っていたので誤魔化為に化粧とファッションセンスを身に着けました。
演技は誤魔化すために、自分を美しく、最も凄い人間に、強い人間に見せるために学び身に着けました。
周りの人に評価されようと、人の弱い心に漬け込む為に人を落ち着かせる技術を身に着けました。
私は努力しました。
口調も変え、特別感を出しました。
そして私は言われるのです
「凄いね」と
私が求めていた言葉はそうではありません。弟や妹のように、『天才』になりたかったのです。
私は悩みました。
私は落ち込みました。
私は悲しみました。
私は絶望しました
私は
私は
私は
私は一人ではなにもできません
私は落ちこぼれです
これで御話は終わりですの。どうでしたでしょうか。
では、私はテレビのお仕事があるのでこの辺で、それでは皆様御機嫌よう。